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盛岡地方裁判所 昭和54年(ワ)229号 判決

原告

橋本勝太郎

ほか一名

被告

吉野勝広

ほか二名

主文

一  被告吉野克広は原告ら各自に対し、金一、〇六七万四、〇〇五円及び内金九七〇万三、六四一円に対する昭和五四年四月一五日から、内金九七万〇、三六四円に対する同年七月三一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告吉野克広に対するその余の請求並びに被告有限会社つばめタクシー、同品川進造及び同石川浩に対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告吉野克広との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を被告吉野克広の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告吉野を除くその余の被告らとの間においては全部原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告らは連帯して、原告ら各自に対し金一、三四八万六、七〇一円及び内金一、二四八万六、七〇一円に対する昭和五四年四月一五日から、内金一〇〇万円に対する、被告吉野につき同年七月三一日から、同有限会社つばめタクシーにつき同月二八日から、同品川につき同月二九日から、同石川につき同月二八日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求をいづれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外橋本悦子は左記交通事故(以下、本事件故という。)により死亡した。

(一) 発生日時 昭和五四年四月一四日午後八時二〇分頃

(二) 発生地 盛岡市盛岡駅前北通一三―三六

陸橋上(四車線)

(三) 事故の状況

右悦子は被告有限会社つばめタクシーの運転手被告品川進造の運転するタクシーに乗客として乗車中、右タクシーは盛岡市内から右陸橋上内側を同市太田方面に向け進行してきたところ、同陸橋上を対向してきた被告吉野克広の運転する普通乗用自動車がセンターラインを越えて右タクシーの進路に進入してこれと衝突し、同タクシーはその衝撃によりガードレールにぶつかり反転したところに、右陸橋上外側を太田方面に向け進行してきた被告石川浩の運転する普通乗用自動車が追突し、悦子は頭蓋骨骨折等により死亡した。

(四) 右事故は被告吉野が運転を誤まりセンターラインを越えて対向車の進路に進入したのと、被告品川運転のタクシーが速度違反をしていたこと、被告石川が前方不注視であつたことが事故の発生、損害拡大の原因となつた。

2  帰責事由

(一) 被告吉野は民法第七〇九条

(二) 被告品川は民法第七〇九条

(三) 被告会社は自賠法第三条又は商法第五九〇条

(四) 被告石川は民法第七〇九条又は自賠法第三条

(五) 被告らは共同不法行為者として連帯責任を負う。

3  悦子は昭和四九年三月盛岡短期大学を卒業、次いで昭和五一年三月岩手歯科技工専門学校(修業年限二年)を卒業し、同年四月一日から岩手医大歯学部に勤務し、本件事故当時二四歳で未婚であつた。

4  損害

(一) 逸失利益 金三、八三七万八、五〇三円

(1) 悦子は前記の如く岩手医大に勤務し、昭和五四年一月から一か年は四等級四号で月額給与金九万二、三〇〇円、賞与は四・九か月分、寒冷地手当〇・四五か月分、特別寒冷地手当金一万四、六三〇円を受け、停年は六〇歳で昇給規定により五一歳までは毎年一号昇給し、五二歳から停年までは二年に一度昇給することになつていた。

(2) 以上の合計金額より生活費二分の一を控除し、ホフマン係数を掛けると、総額金三、二八一万二、三八三円(別表参照)となる。

(3) 停年の際の退職金は金一、六七六万三、六七〇円でホフマン係数を掛けると金五五六万六、一二〇円となる。

(4) したがつて逸失利益は合計金三、八三七万八、五〇三円となる。

(二) 治療費 金五万一、七〇〇円

はらた脳神経外科病院の診療費

(三) 慰藉料 金一、二〇〇万円

悦子は原告両名の二女であるが、長女が病死したので原告らは悦子を老後の唯一の頼りとし、原告勝太郎の停年も間近かなため原告両名は悦子の収入により扶養されることを期待していたものであるところ、悦子の死亡により生甲斐を失つて虚脱状態にあり、慰藉料は金一、二〇〇万円が相当である。

(四) 葬儀費 金六〇万円

御布施金三四万円、葬儀店への支払金二九万三、〇〇〇円、法事費金八五万三、七五〇円を要しているので、少くとも金六〇万円が相当である。

(五) 弁護士報酬 金二〇〇万円

右(一)ないし(五)の合計金五、三〇三万〇、二〇三円が損害である。

5  自賠責保険金二、六〇五万六、八〇〇円の支払を受けた。

6  悦子の死亡による相続における相続人は原告両名であり、その相続分は各二分の一である。

7  よつて、原告らは各自、被告らに対し連帯して、金一、三四八万六、七〇一円及び内金一、二四八万六、七〇一円に対する不法行為の日の翌日である昭和五四年四月一五日から、内金一〇〇万円に対する弁済期の後たる訴状送達の日の翌日(前記第一の一1記載のとおり。)から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告吉野

請求原因1の事実は認めるが、その余の請求原因事実は不知。

2  被告会社及び被告品川

(一) 請求原因1の事実中、冒頭の事実及び(一)ないし(三)の事実は認めるが、同(四)の事実中被告品川運転のタクシーの速度違反の事実は否認する。仮に速度違反があつたとしてもわずかに制限速度を越えたのみであり、本件事故発生とは全く因果関係はない。

(二) 同2の帰責事由の主張は争い、同3ないし6の事実は不知。

3  被告石川

請求原因1の事実(但し、被告石川に前方不注意の過失があつたとの点を除く。)、同3、6の事実は認める。同2の事実中、同被告の帰責事由は争い、その余の事実及び同4の事実は不知。

三  被告らの主張

1  被告会社及び被告品川

本件事故は被告吉野の無暴運転によるものであつて、右被告両名には責任はない。自動車運転者は互に走行区分を守り、前方に注意して進行すべき義務を負うものであつて、センターラインを越えて暴走してくる対向車があることは通常予測できないことであるし、また予測して注意すべき義務もないのである。若し注意義務ありとすれば対向車がくるたびに互に減速し或いは一時停止をして、相手の動静をうかがわなければならないことになつて、自動車交通そのものが否定されなければならないことになつてしまう。したがつて本件事故について被告らが責任を負う理由はない。

2  被告石川

被告石川は、本件現場を時速約四〇キロで走行していたところ(現場は二車線で、被告石川は外側を走行していた)、被告品川が運転するタクシーが石川車を追い越し、約一〇メートル位先行しまだ二車線の内側を走行しているところへ、被告吉野の車が進入してきて右タクシーに衝突し、右タクシーがその衝撃で石川車の車線に押し出され、石川車の直前に停止したため、被告石川は急制動をかけたが回避しえず、タクシーの右側面に衝突した。被告石川は先行していたライトバンと約三〇メートルの車間距離をとり、前方を十分注意して運転していたが、タクシーが進行前方に突然押し出されて来たため衝突させたものであり、過失はない。なお、石川車には構造上の欠陥および機能上の障害もない。

四  被告らの主張に対する答弁

1  被告品川はタクシーの運転手として交通法規を守り乗客を安全に輸送する義務を有するところ、本件事故現場は最高速度毎時四〇キロメートルに規制されている道路にも拘らず、二車線の内側を時速四〇キロメートル位で進行している被告石川の運転する普通乗用車の右側をかなり速いスピードで追い越して事故現場にさしかかつたもので、その速度は時速六〇キロ乃至七〇キロであつた。被告品川が制限速度内で進行していたとすれば、被告吉野の車が衝突した際の衝撃度も本件事故の場合より少く、従つて事故の態様も変つたものとなり、悦子も死亡するほどの傷害を受けなくてすんだものと考えられる。

2  又、被告品川の運転するタクシーは、事故現場が上り坂であり頂上から先の車の動向は見えなかつたのであるから、追越の場所として不適当であつたにも拘らず敢えて追越を行つたことも、本件事故の一原因となつている。

第三証拠〔略〕

理由

第一  被告吉野に対する請求について

一  請求原因1の事実は原告被告吉野間に争いがないところ、右争いがない事実によれば、被告吉野はその運転する普通乗用自動車(以下、第一加害車という。)をセンターラインを越えて、被告品川運転のタクシー(普通乗用自動車。以下、被害車という。)が走行する対向車線に進入させて右タクシーと衝突させ、その結果被害車に同乗していた悦子を死亡させたものと認められるから、本件事故は被告吉野の運転上の過失により発生したものということができる。したがつて、被告吉野は民法七〇九条に基づき、亡悦子及び原告らの蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  そこで、損害につき検討する。

1  治療費

成立に争いのない甲第二号証、原告橋本勝太郎本人尋問の結果によれば、本件事故による亡悦子の受傷治療のための盛岡市神明町一〇―二八所在医療法人はらた脳神経外科病院における治療費は金五万一、七〇〇円であることが認められる。

2  逸失利益

成立に争いのない甲第一〇号証、原告勝太郎本人尋問の結果によれば、亡悦子は昭和四九年三月盛岡短期大学を卒業し、次いで同五一年三月岩手歯科技工専門学校(修業年限二年)を卒業して歯科技工士の資格を取得したうえ、同五一年四月から岩手医大歯学部に勤務し、本件事故当時満二四歳の未婚の女性であつたこと、本件事故当時の亡悦子の右勤務による年収は金一六一万六、〇三五円(四等級四号で月額給与金九万二、三〇〇円の一二か月分、賞与四・九か月分、寒冷地手当〇・四五か月分、特別寒冷地手当金一万四、六三〇円の合計額)であり、右勤務においては、停年は六〇歳、昇給規定により五一歳までは毎年一号昇給、五二歳から停年まで二年に一号昇給ということになつており、就労可能な停年時までの各年の年収額は別表「一か年合計金額」欄記載のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。なお、退職金については立証がない。)。そこで、右各年の年収額を基礎とし、生活費控除を二分の一とみなし、各年におけるホフマン係数を適用(中間利息控除の算式については右ホフマン式計算法が不合理とはいえないので同式を適用するのが相当である。)して逸失利益の各年毎の現在価額を算出すると、別表「逸失利益」欄記載のとおりとなり、その合計額は金三、二八一万二、三八三円となるから、右金額を亡悦子の労働能力に関する逸失利益額と認めるのが相当である。

3  慰藉料

原告勝太郎本人尋問の結果によれば、亡悦子は原告両名の二女であるが、長女が本件事故二年前の昭和五二年二月病死したためただ一人の子供であつたこと、原告両名は亡悦子を老後の頼りとして面倒を見て貰うべく期待していたことが認められ、原告両名にとつて亡悦子はかけがえのない支えであり、それを失つた痛手と悲しみは尋大なものであることは容易に推認されるところであり、これに亡悦子が有職の有能な女性として将来を嘱望されていたこと、本件事故の態様と被告吉野の過失の程度などを総合斟酌すれば、原告両名の精神的苦痛に対する慰藉料は金一、二〇〇万円(各金六〇〇万円)を相当とする。

4  葬儀費

成立に争いのない甲第四ないし第七号証、原告勝太郎本人尋問の結果によれば、亡悦子の葬儀費、法事費等として合計金一四八万六、七五〇円を要したことが認められるが、この内、金六〇万円が葬儀費として社会通念上相当と認められる。

以上の1ないし4の各損害額合計金四、五四六万四、〇八三円はいずれも本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害であること明らかである。

三  右損害の填補として、原告らが金二、六〇五万六、八〇〇円の支払を受けたことは原告らの自認するところであるから、未だ填補されない損害額は金一、九四〇万七、二八三円である。なお、弁護士費用については、右損害額(認容される額でもある。)の一〇パーセントが相当と考えられるから、金一九四万〇、七二八円(円未満切捨)と算出され、右金額は本件事故による損害額とみなしうる。そして、悦子の死亡による相続における相続人は原告両名であり、その相続分は各二分の一であることは上来説示から明らかである。

四  よつて、原告らの被告吉野に対する本訴請求は、原告両名が各自、同被告に対し、右金一、九四〇万七、二八三円と金一九四万〇、七二八円との合計額金二、一三四万八、〇一一円の二分の一である金一、〇六七万四、〇〇五円(円未満切捨。但し、原告ら固有の慰藉料請求分も含む。)及び内金九七〇万三、六四一円に対する不法行為の日の翌日である昭和五四年四月一五日から、内金九七万〇、三六四円に対する弁済期の後たる訴状送達の日の翌日である昭和五四年七月三一日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

第二  被告会社及び被告品川に対する請求について

一  請求原因1の冒頭の事実及び(一)ないし(三)の事実は原告ら被告会社同品川間に争いがない。

二  そこで、被告品川の過失の有無について検討するに、右当事者間に争いがない事実の外、成立に争いのない甲第一一、第一二号証、乙第一ないし第八号証、被告品川進造本人尋問の結果によれば、被告吉野は普通乗用車(第一加害車)を運転中、運転免許取得直後で運転経験・技術が未熟であつたにも拘らず、好奇心と同乗していた友人に運転技術のうまいところを見せようとの気持が働いたことなどから、二台の普通乗用車を蛇行状態で追い越しつつ走行車線(進行方向外側車線)に入つたが、その時点での第一加害車の速度は時速約七〇キロメートルの高速度に達したため、ハンドルを取られた状態となり、左端の陸橋欄干に衝突しそうになつたことから、あわててハンドルを右に切り、第一加害車を右斜前方に、センターラインを越えて飛び出させたこと、このように右斜前方に進行した際、被告吉野は前方約一〇メートルの至近距離に対向車線(内側)上に対向車(被害車)を発見したが、どうすることもできず、ブレーキを踏む間もなく高速度のまま進行し、第一加害車右側前部を被害車右側前部に衝突させたこと、その衝撃は大きく、第一加害車の前部等は大破して道路中央部に進行方向と反対向きに停つたが、右第一加害車についてはブレーキ痕はなく、コーナーリング痕のみがあつたこと、他方、被告品川運転の被害車は時速約五〇キロメートルで対向車線の内側車線(センターライン側)を陸橋頂上付近に向けて坂を上りながら進行していたが(勾配約五度)、頂上付近から手前五、六〇メートル付近において、突然右斜前方から前照灯の明りと共に対向車がセンターラインを越えて飛び出して来たため、ハンドルを操作転把して避譲する間もブレーキを踏んで急停止する暇もなく、被害車右前部に衝突され、前部を大破するに至つたこと、その衝撃で被害車後部右側に乗車していた亡悦子は運転席と助手席との間付近まで飛ばされて来たこと、以上の各事実が認められる。前掲甲第一二号証中、タクシーのスピードは時速六、七〇キロメートルであつた旨の記載部分は、右認定の衝突の状況、後記認定の、タクシー(被害車)は被告石川運転の第二加害車を追い越したのではなく、追い抜いたに過ぎないこと及び前掲各証拠に照らしたやすく措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の各認定事実に徴して判断するに、被告吉野はその運転する第一加害車を、被害車の直前で突然センターラインを越えて対向車線に飛び出して進入させ、被害車に衝突させたものと認められるが、被害車を運転する被告品川としては、対向車が至近距離から突然センターラインを越えて進入してくるような異常な事態まで予測し、減速徐行等の衝突回避の措置を採り事故を未然に防止すべき義務があると解するのは相当でないから、前認定のとおり、被告品川が進路変更、減速徐行急停止等の避譲措置を特に採らなかつたからといつて同被告にこの点の過失があつたと認めることはできない。また、原告らが被告品川の過失として主張する制限速度違反についても、同被告が制限速度を約一〇キロメートル毎時超過して走行していたことは前記認定のとおりであるが、仮に右速度違反がなかつたとしても、前認定のような第一加害車の飛び出しに対しては、衝突を回避することは至難の業であつたといわざるをえないから、右速度違反をもつて本件事故の原因とし、同被告の過失と目することはできない。さらに、前記認定のとおり、同被告運転の被害車は、坂を上つて進行し、頂上付近から約五、六〇メートル手前付近を走行していたのであるから、下り方向の見透しが悪いことを考慮して減速すべきであつたともいえそうであり、同被告が右場所において減速しなかつたことは前認定のとおりであるが、減速していたとしても、これまた、前記第一加害車の飛び出しに対しては、衝突を回避することは非常に困難であつたというべきであるから、右減速違反をもつて本件事故と因果関係のある同被告の過失ということもできない。他に同被告の過失を肯認するに足りる証拠はない。

したがつて、原告らの被告品川に対する民法七〇九条の不法行為に基づく請求は、その余の点を論ずるまでもなく理由がない。

三  次に、被告会社が加害車を自己のために運行の用に供する者であつて、本件事故が右運行中に生じたものであることは原告ら被告会社間に格別争いがないので、被告会社の自動車損害賠償法三条但書にいう免責の主張について検討するに、前記二の各認定事実及び説示によれば、本件事故は専ら第一加害車を運転した被告吉野の運転未熟・高速度運転から来る蛇行運転により、通行区分遵守義務、安全運転義務に違反して被害車の直前で突然センターラインを越えて対向車線に飛び出し進入したという同被告一方的過失に基づくものであり、他面、被害車を運転した被告品川には本件事故の原因となるような過失はないものといわざるをえない。そして、被告会社の主張は、弁論の全趣旨において、被害車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたかどうかは本件事故の発生とは関係がない旨をも主張しているものと解せられるところ、被告品川運転の被害車が被告会社の所有であり、同被害車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことは弁論の全趣旨により認められるから、被告会社の右免責の主張は理由がある。

そうだとすれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの被告会社に対する請求は理由がない。

第三  被告石川に対する請求について

一  請求原因1の事実(但し、被告石川に前方不注意の過失があつたとの点を除く。)は原告ら被告石川間に争いがない。

二  そこで、被告石川の過失の有無について検討するに、右当事者間に争いがない事実及び前記第二の二において認定した各事実の外、前掲甲第一一、第一二号証、乙第一、第二、第五号証によれば、被告石川運転の普通乗用車(第二加害車)は時速約四〇キロメートルで陸橋方向に向つて外側車線を走行中、途中で内側車線を走行して来た被告品川運転の被害車(タクシー)に追い抜かれ、右被害車が内側車線(右斜前方)約一〇メートル先付近に進行して間もなく、「ドーン」という音と共に突然右前方から被害車が横向きに、被告石川の進路をふさぐ状態で進入して来たため、避譲する間もなく、被害車の右側面に衝突したこと、被害車が被告石川の進路(外側車線)に進入して来たのは、先に認定した経過・態様で、被害車が第一加害車に衝突させられ、衝突地点から対向車線側へ後向きの状態で押し出されたためであり、対向車線側の陸橋欄干に衝突した後、第二加害車と衝突したこと、第二加害車の前部は中破し、右衝突地点から四、五メートル前方の外側車線上に右斜状に停止し、被害車も同様に約七メートル前方に第二加害車と併列する形で停止したこと、以上の各事実が認められ、右認定に反する適切な証拠はない。

右各認定事実及び前記第二の二の各認定事実並びに説示に徴して検討するに、被告吉野はその運転する第一加害車を、被害車の直前で突然センターラインを越えて対向車線に飛び出し進入させて被害車に衝突させ、更に、その直後右被害車が対向車線側へ後向きの状態で押し出され、被告石川の進路(対向車線の外側車線)に、突然至近距離から進入して第二加害車と衝突したことが認められるが、第二加害車を運転する被告石川としては、前述の被告品川と同様、対向車が至近距離から突然センターラインを越え、被害車と衝突した直後、更に右被害車が対向車線の外側車線にまで進入してくるような異常な事態まで予測し、減速徐行等の衝突回避の措置を採り事故を未然に防止すべき義務があると解するのは相当でないから、右認定のとおり、被告石川が進路変更、減速徐行急停止等の避譲措置を特に採らなかつたからといつて同被告にこの点の過失があつたと認めることはできない。また、原告らが被告石川の過失として主張する前方不注視についてはこれを認めるに足りる証拠はないし、他に同被告の過失を肯認するに足りる証拠はない。

したがつて、原告らの被告石川に対する民法七〇九条の不法行為に基づく請求は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。

三  次に、同被告が第二加害車を自己のために運行の用に供する者であつて、本件事故が右運行中に生じたものであることは原告ら被告石川間に格別争いがないので、同被告の自賠法三条但書にいう免責の主張について判断するに、前記第二の二及び第三の二における各認定事実及び説示によれば、本件事故は専ら第一加害車運転した被告吉野の運転未熟・高速度運転から来る蛇行運転により、通行区分遵守義務、安全運転義務に違反して被害車の直前で突然センターラインを越えて対向車線に飛び出し進入させて被害車に衝突させ、その結果、右被害車を対向車線の外側車線に突然至近距離から進入させたという同被告の一方的過失に基づくものであり、他面、第二加害車を運転した被告石川には本件事故の原因となるような過失はないものといわざるをえない。そして、被告石川運転の第二加害車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことは前掲甲第一一号証及び弁論の全趣旨により認められるから、同被告の右免責の主張は理由がある。

四  そうだとすれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの被告石川に対する請求はいずれも理由がない。

第四  以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴各請求は、被告吉野に対する請求につき、前記第一の四に説示した限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、被告吉野を除くその余の被告らに対する各請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 樋口直)

別紙 〈省略〉

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